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もっと人間のかたちをしてくるように


by s_koma

雨の日はスカートをはいて

私が小学校低学年のころ、
「トイレの花子さん」というアニメがはやった。
走る二ノ宮金次郎とか、笑う骨格標本とならんで
学校の怪談の定番な花子さんだが、
このアニメの中ではヒーローだった。


おばけが悪さをしてこまった時は、
女子トイレの奥から三番目をノックし、
「花子さんたすけてください」と言えばよい。


目つきは悪いが正義の味方な花子さんが、
マスコットキャラクターの「ほわほわ」をつれ、
(まっくろくろすけを漂白して、
バスケットボールサイズまで大きくしたようなビジュアル)
悪いおばけを退治してくれる。


このときの退治のしかたが一風かわっていて、
花子さんがスカートについているチューリップのアップリケを
敵にぶつけるのだが、
これが幼い私にはツボだった。


はじめは「アップリケ」というのが何なのかわからず、
それでも言葉のひびきがかわいらしいので気にいっていた。
それが服などに別の布をぬいつけたかざりだと知ったころ、
ちょうど家庭科の授業ではじめての裁縫をやった。


フェルトや布を好きなかたちに切って、
服やカバン、ざぶとんにぬいつけてみましょう、と言われては、
もうぜったいに花子さんスカートをつくるしかない。


この手のことは得意な子とへたな子の差が大きいので、
うまい子はまつり縫い(ふちをとめるので丈夫)、
ふつうの子はなみ縫い(一番かんたんなアレ)、
どうしようもない子はシール状の布をアイロンでくっつける
(救済措置。もはや裁縫ではない)。


となりのせっちゃんはすいすい針を動かし、
きれいなまつり縫いで先生にほめられていた。
しかも縫い目がめだたないように
布と同じ色の糸をつかうという高度なことをしていて、
せっちゃんはすごいなあと思った。


一方、ぶきような私は練習の時点でかなり遅れをとってしまい
(玉むすびがつくれない><)、
ついには先生にアイロンを使えと言われてしまった。
それでも、アニメの「花子さん」のアップリケには
ふちにそってきれいななみ縫いの目がついていたし、
縫い目があるのがハイカラだと思っていたので、
休み時間も居座ってちくちくチューリップをぬった。
糸をケチったので長さが足りなくなり、
玉止めはせっちゃんに手伝ってもらった。


縫うときのおさえがいいかげんで、
布がズレてたるんだ感じになっていたし、
はじめは4ミリ間隔だった縫い目は後半1センチ幅だった。
それでも花子さんスカートに私は満足した。
家にもち帰って母にほめてもらい、
明日はぜったいにこのスカートをはいていくと宣言して寝た。


次の日は大雨だった。
スカートはぬれちゃうからやめときなさい、
と母はもっともな忠告をする。
しかしできたばかりのスカートを、たかだか雨ごときで
はかずにいられる小学2年生がいるわけないのだ。
スカートをはき、
上も花子さんに似た白いブラウスを選んで、
意気揚々と私は学校へむかった。


あとのことはもう書く間でもない。
子供のころはカサの使い方が下手だし、
ながぐつで水たまりの中を平気で歩くから、
ぬれるのは当然だ。


しかしそれだけではなかった。
私の住んでいた地域は道路の舗装がざつで、
あちこちに水たまりができ、
走る車が豪快にどろをはねる。
この車がはねる水を、カサを盾にしてガードする、
という遊びがこのころ流行った。


とろい私は上から下まで水をあび、
全身ずぶぬれになってしまった。


スカートの生地をつまんでぞうきんのようにしぼり、
なんとか脱水しようとするのだが、
ぞうきんのように丈夫な布ではないので
一度ねじるとなかなかもとにもどらない。


短いみつあみをたくさんこさえて
はりせんぼんのような髪型になっているキャラクターが
漫画によくいるが、あれにそっくりだった。


もともと縫いが甘かったアップリケはさらによれよれ、
糸がほつれてチューリップの右側のはっぱが
どこかにいってしまった。


半泣きで家に帰ると、
だからスカートで行くんじゃないって言ったでしょ、
と母はあきれながらもアップリケを縫いなおしてくれる。
私はあくまで原作に忠実になみ縫いにしてほしかったが、
遊びざかりの子供の服は丈夫な方がいいという当然の親心で、
きっちりまつり縫いで縫われてしまった。


これが私には気にいらず、
どうしてなみ縫いにしてくれないの、
こんなの花子さんのスカートじゃないと言って泣き、
怒られてまた泣いた。


あれからもう十数年たった。
今でも私は雨の日、むだに華やかな服をきて
人に笑われることがある。
べつにデートがあるわけじゃない。
ただ雨の日は心が落ちこむから、
せめて気分が晴れやかになる服を着たいと思う。


いっちょうらを雨にさらし、
結局後悔してよけいに落ちこむことの方が多いのだが、
そんな時あの花子さんスカートを思いだす。
こりない性格だと自分にあきれてしまう。

by s_koma | 2008-06-13 02:37